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会うと涙がこみ上げてくる人はいるだろうか

わたしにとっては、12年ほど通っている中華料理屋さんのマスターがそうだ。


樂庵ができる前に住んでいたマンションの近くにある
カウンター10席ほどの小さなお店で
タクシーの運転手さんや工事現場で働くお兄さんがやってくるガテン系の設えだ。

もちろん量が多く、値段も安い。
今となっては完食するのがかなり難しくなったけれど
それでもふと思い出して行きたくなる。

通っているといっても1年以上間が空く時もある。
そんな時は少し気恥ずかしい。
それを承知してか、たんたんと調理して距離を開けてくれる。
けれど10分くらいすると「久しぶり」と必ず声をかけてくれるのだ。

それ以上は何も言わない。
でも深い安心感に包まれる。

真っ白な髪と使い込まれた白衣と穏やかな表情が目の前にある。
配膳係のおかみさんは、お客さんに「ご飯の量を減らして」とよく言われている。
「はいよ!」と勢い良く返事はするものの、ほんのちょっとしか減らない。

こんな生活を何十年続けてきたんだろうと想像すると、いつも涙がこみ上げてくるのだ。
悲しいわけでも感動しているわけでもない。
たぶんお二人の愛に感応しているんだろうと思う。

今日は初めて創業何年か聞いてみた。

「35年です」

確かに長いけれど、想像したよりは短い。
この店の前から調理師だったのか質問を重ねてみた。

「そうです。赤ん坊の時から。家が食堂だったから。今日手伝っているのはひ孫」

病院や施設に入ったり、隠居していてもおかしくない年齢なのに
今も尚、自立して幸せを与えて、若者に仕事まで教えている。

なぜ続けられたのか。
聞いてみたかったけれど、また1年後にしよう。

わたしもこんな店主になりたい。

 

 

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